破壊的?持続的?

単に私の解釈が間違ってるだけなのかもしれませんが…
「破壊的イノベーション」とは、今までとは違う全く新しい技術が使われている、という意味ではありません。既存の市場と比べて魅力の薄い、新たな市場を開拓するイノベーションを指すのです!
…言い切っちゃった。ほんとはそんなに確信は無いんですけどね;-p


GAE/Jは破壊的イノベーション - ひがやすを blogを読んでから、もやもやしていたんです。いえ、この記事にかぎらず、以前からちょくちょく感じる事がありました。

Amazonのほうは持続的イノベーションGoogleのほうは破壊的イノベーション
EC2は、過去の技術をそのまま使える(汎用的な仮想化サービス)ので、連続的な技術なのです。
それに対してGAE/Jは、できることをかなり制限して、しかもRDBMSをすててBigTableにのりかえるっていう非連続ぶり。

この記事に限った事ではありません。持続的 / 破壊的イノベーション、と言われる場合に、過去の技術を発展させた技術か、あるいは全く新しい技術か、という意味で書かれる事が多いような気がします。これ以外にも「SSDは磁気的に記憶するのでもなければ、可動部分も持っていない。破壊的技術だ」的な記事を読んだりして感じてたんですが…それって、「イノベーションのジレンマ」に書かれている「持続的イノベーション」「破壊的イノベーション」とは意味が違ってるんじゃないでしょうか。
SSDやGAE/Jが破壊的イノベーションなのかどうか、EC2が持続的イノベーションなのかどうか、についてはまた考えてみたい所ですが…

至極まっとうな経営判断が故に没落してしまう、ていうのが「イノベーションのジレンマ

ちょっと長くなりますが、まずは「イノベーションのジレンマ」の序章から引用します。

技術と市場構造の破壊的変化に直面し、失敗した大手企業は、数えればきりがない。一見、これらの企業を襲った変化には共通のパターンなどないように思われる。新しい技術が短期間で旧技術を一掃する場合もあれば、移行に何十年もかかる場合もある。新しい技術が複雑で、開発にコストがかかる場合もある。大手企業がすでにだれよりもうまくやっていた事を単純に拡張しただけで、市場を決定する技術になる場合もある。しかし、全てに共通するのは、失敗につながる決定をくだした時点では、そのリーダーは、世界有数の優良企業と広く認められていた

つまり、変化の速度とか、技術的な革新性とか、そういった事とは関係なく、優良企業が突然凋落する、という事がある、と。で、「イノベーションのジレンマ」で書かれた研究というのは

成功している間の意思決定の方法に、のちのち失敗を招くなんらかの要因がある

という「見解を支持している」と書いてあります。

市場の動向を注意深く調査し、システマティックに最も収益率の高そうなイノベーションに投資配分したからこそ、リーダーの地位を失ったのだ。

つまり至極まっとうな経営判断がまずい事もあるって言ってるんですね。この至極まっとうが故に没落してしまう、ていうのが「イノベーションのジレンマ」なんだと。この本の第一部は、この「優良企業」が「リーダーの地位を失った」実例の調査から「破壊的イノベーション」の姿を描き出しています。

「技術」はただのエンジニアリングではない。価値付加のすべて。イノベーションは、その変化。

「技術」の定義は序章にあります。

本書でいう「技術」とは、組織が労働力、資本、原材料、情報を、価値の高い製品やサービスに変えるプロセスを意味する。

つまり、この技術の概念は、エンジニアリングと製造にとどまらず、マーケティング、投資、マネジメントなどのプロセスを包括するものである。

何とも広いですね。
掛け値有りで案件を取って、大量の下請けを投入して、利益をはじき出す、も技術です。
安く請けて、大量の下請けを投入して、工数が肥大したら追加料金を引き出して赤字にしない、も技術です。
小さい案件を取って、オーバーヘッドを最小限にとどめて、少数精鋭で作る、も技術です。
それぞれに応じた技術がある、じゃなくて、それらそのものも技術なんです。
閑話休題。「イノベーション」の定義も、そのすぐ後にあります。

イノベーション」とは、これらの技術の変化を意味する。

なんともあっさりしたものです。技術が変化すればすべからくイノベーション。まぁ、この定義でも「技術」がかなり高い視点のものなので、「PHPからJavaに移行した」なんて言っても同様の労働力と情報を投入して同様のサービスを提供する限りは、「イノベーション」にならないんじゃないかとは思いますが…

「破壊的イノベーション」とは「製品の性能を引き下げる効果を持つイノベーション

さて、「技術」「イノベーション」はわかったので、持続的/破壊的の定義、ですが…序章に

新技術のほとんどは、製品の性能を高めるものである。これを「持続的技術」と呼ぶ。

しかし、時として「破壊的技術」が現れる。これは、少なくとも短期的には、製品の性能を引き下げる効果を持つイノベーションである。

と、まぁここまでで違和感の大部分は説明出来ます。
使われている(エンジニアリングと製造にとどまる意味での)技術が革新的かどうかだけでは、破壊的技術か、持続的技術か、は言えません。まったく革新的な機構を利用する持続的技術もあれば、「大手企業がすでにだれよりもうまくやっていた事を単純に拡張しただけ」の破壊的技術もある、わけですから。

でも、「製品の性能を引き下げる効果を持つイノベーション」は、「破壊的イノベーション」の定義としては弱いような…

こっからは私の解釈の部分が大きいのですが。
第一章HDDの小型化の歴史を追う中で、3.5"までは破壊的技術とされてるんですが3.5" → 2.5"については持続的技術だと書かれてるんです。もちろん(他の小型化と同様に)2.5"のHDDは容量では3.5"に及びません。ただ、他の小型化と同様に)小さく軽いだけです。

「破壊的イノベーション」とは「(既存の)市場の評価」を引き下げる効果をもつイノベーション

じゃあ、3.5" → 2.5"の小型化とそれ以外の小型化のなにが違うかというと、

その販売対象であるポータブル・コンピュータ市場は、それ以外の重量、耐久性、消費電力、大きさ、と言った特徴を重視した。

つまり、3.5"HDDの顧客が望んでいたから、て言う事なんですね。まぁ、「持続的/破壊的」を区別するのは「性能」といえば「性能」なんですが、性能を評価するのは既存の顧客なんです。既存の顧客が望む方向の変化は、どんな変化であれ持続的イノベーションなんじゃ無いでしょうか。
発泡酒から第三のビール、なんて変化はたぶん持続的イノベーションになるんじゃないかと思いますし、既存の顧客が望むかどうか。既存市場に受け入れられるかどうか。まぁ「性能を高める」といいつつ、そういう事なんだと思います。

破壊的イノベーションは、魅力の薄い新たな市場を開拓する

「破壊的」ていうのは、「世界有数の優良企業と広く認められていた」リーダーを失墜させる事を指してるんだと思っています。なんで足下をすくわれるかというと、既存顧客は使いようが無いって言うし、他に市場も無いし、とまぁ手を出す理由が無い環境で発展するからなんですね。で、手を出すだけの価値が出る頃にはもう大幅に遅れをとってしまっている。この「手を出さない」理由である「既存顧客に評価されない」「利幅の薄い市場を開拓する」ていうのは破壊的技術が破壊的たるための条件だと思います。そうでなければ当然手を付けてるはずなので。
そんな訳で、破壊的技術は「既存の市場と比べて魅力の薄い、新たな市場を開拓するイノベーション」だと私は認識するに至ったのでした。